司法書士と会社員、どっちが楽?

独立開業のリアル

1.会社員より楽?

正直、最初の事務所に勤めて半年を過ぎた頃には、司法書士の仕事なんて会社員時代にやっていた仕事に比べたら楽勝!と思っていました。

決済事務所だったので定型的な仕事(ルーチンワーク)が多かったというのもありますが、司法書士試験の勉強を通じて法律や登記についての知識が既に十分に身に付いていたからというのが最も大きな理由だと思います。

一番身に付けるのが難しい事が既に身に付いてしまっているので、あとは業界特有のお作法を学ぶだけです。そしてそれは難しいものではなく、1~2回経験すれば身に付きます。

実際、経験の長い補助者さんを見ても、やっぱり法的素養が弱いなと感じました。定型作業はそつなくこなせるのですが、イレギュラーな事態や案件に柔軟に対応できないのです。

半年もするとイレギュラー案件は「よろしく、資格持ってるんでしょ!」という感じで当然のようにこっちに振られるようになりました。「いやいやアンタら俺よりいい給料もらってるんでしょ…」と呆れながらも独立に向けての勉強だと思って取り組んでいました。

また、会社員時代に培ったタスク管理能力、スケジュール管理能力、文書作成能力、コミュニケーション能力といった汎用的なスキルは、司法書士業界においても当然通用します。自分は司法書士業界1年生だと思って一からスタートを切ったつもりでしたが意外と今まで身に付けた武器で戦えるな、と思いました。

2.案件のスパンが短く、関係者も少ない

会社員時代は、システム構築プロジェクトのリーダー(プロジェクトマネージャー)的な役割を果たすことが多かったのですが、プロジェクトはたいてい1年以上の長期に渡るものでした。それに比べて、司法書士業務は1案件のスパンが短いのもやり易いと感じました

スパンが長いとそれだけ管理が難しくなります。時間の経過とともに事情が変わったりしてスケジュール(予定)と実績のズレが生じたり、想定外の事態が発生するリスクが高くなります。当初の見積よりコストが嵩み、最悪赤字になることもあります。

司法書士業務はせいぜい数カ月程度のスパンの案件が多く、1年を超える案件はほとんどありません。また、ステークホルダー(関係者)の数もさほど多くありません。司法書士業務においても、売主・買主・仲介・金融機関といった様々な関係者が登場しますが、それでも会社員時代に携わっていたプロジェクトに比べたらはるかに少ないです。

3.責任範囲が明確

決済事務所に勤務していた頃、仲介に対し事前に書類(住民票の写し等)をFAXして欲しいと何度お願いしても送って来てくれないので、所長にどうすればいいか尋ねたところ「何度も言ってるのに送って来ないなら仲介が悪い。決済当日問題があってもこちらの責任ではない。」と言われ、目から鱗が落ちた気がしました。会社員時代のクセが抜けていなかったのか、プロジェクト全体に責任を負う意識でいたのです。

プロジェクトマネージャーはプロジェクトの責任者なので偉いポジションと思われがちですが、実際は関係各部署との調整役みたいなものです。スペシャリストよりもゼネラリストと言えるかも知れません。ある部署の人にその専門分野についてヒアリングすると「そんなことも知らないの?」みたいな態度を取られることが往々にしてありました。そういう人間は、一方で自分が知らないことについては「それ、俺の専門じゃねーし」という態度を取ります。正直、楽でいいよな、と思っていました。

司法書士はスペシャリストなので、自分の専門分野についてのみ責任を負えばよいし、むしろそれを超える責任は負えません。誤解を恐れずに言うと、自分の責任範囲の仕事をきっちり遂行しさえすれば、不動産売買と言うプロジェクトそのものの成否は知ったことではありません。不動産売買を1つのプロジェクトと捉えた場合、プロジェクトマネージャーにあたるのは仲介業者でしょうか。

4.残業が少ない、夜中に電話がかかって来ない

最初の決済事務所では残業はあってもせいぜい1~2時間、18時にはほぼ上がれます。(2つ目の事務所は決済以外にも色々取り扱っていたのでもっと残業が多かったですが。)夜中に電話がかかってくることもありません。

会社員時代は終電で帰るのは日常茶飯事。システムは24時間稼働しているので、トラブルが発生すると夜中でも休日でも電話がかかって来ます。そして、システムというものは一般の方が考えるよりはるかに頻繁にトラブります

5.感謝してもらえる仕事

司法書士はお客様から感謝される仕事です。決済終了後に売主・買主・仲介・銀行員等から「先生、ありがとうございました」と(たとえ社交辞令が含まれていたとしても)言ってもらえる仕事はとてもやりがいがあります

一方でシステムはきちんと動いて当たり前、文句を言われるばかりで感謝されることはほぼありません。例えばATMがシステム障害を起こすと散々叩かれます。新聞にも載ります。ですがATMから正常にお金が引き出せて感謝する人はいません。社会人1年生の時に先輩から「WordやExcelって素晴らしいアプリケーションだけど、使っていると不満しか出てこないだろ。俺らの仕事ってそういうもんだよ。」と言われたのを憶えています。

それに比べて司法書士業界はなんて素晴らしいんだと思いました。今にして思うとIT業界が地獄なだけなんですが…。

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