不動産屋と付き合わない理由

独立開業のリアル

1.不当誘致が横行している?

私の事務所の近所に不動産屋が移転してきた際、知人からそこの社長を知っているから紹介してあげるとのありがたい申し出を受けたのですが、断りました。

簡裁訴訟代理等能力認定考査の模擬試験を受けたときに、解説中、講師が余談で「皆さんも開業すれば飲み屋で不動産屋を接待して仕事をもらうことになる。司法書士とはそういう仕事です。」と言っているのを聞いてマジか…と思ったのを憶えています。

それは極端な話だったとしても、現在の業界構造的に、司法書士と不動産屋が対等の立場でいることは難しく、どうしても司法書士が下になってしまいがちです。

司法書士の地位を貶めているのは、不動産屋から仕事を回してもらう(※)代わりに不動産屋が買主となる取引(「仕入れ」といいます)の登記をタダ同然で請け負っている司法書士事務所です。

※司法書士報酬を含む登記費用は、買主が支払います。(地域によっては売主も負担するそうですが。)本来は、お金を払う人が司法書士を自由に選べるべきですが、一般の方(例えばマイホームを買う人)は司法書士の知り合いなんていないのが普通なので、売主である不動産屋が紹介する司法書士に依頼することがほとんどなのです。売買契約書に「司法書士は売主が指定する」なんて条項が入っていることもあります。

こういうやり方は「不当誘致」といって、司法書士倫理で禁じられています。新人研修でもしつこいくらいに「ダメですよ」と教わります。しかし残念ながら、きちんと取り締まられることなく裏で横行しているのが現状です。

2.決済ヘルプも問題アリ

司法書士が別の司法書士に立会を依頼する「決済ヘルプ(決済バイト)」も問題です。私も食べていくためにヘルプを受けていますが、本来は禁止すべきだと思っています。

不動産屋の依頼を断って他の事務所に仕事が流れてしまうのを恐れ、自分の事務所のキャパでは対応できない数の案件を受任し、他の司法書士にヘルプを依頼しているわけですが、これって他の司法書士に仕事を斡旋して紹介料を取っているのと変わりませんよね。(なお、司法書士倫理ではいかなる名目であれ紹介料を貰うのも払うのも禁止されています。)

仮に、自分で受けられないから知り合いの司法書士を紹介し、その司法書士に直接委任してもらい、自分は一切報酬を受け取らない、ということであれば何も問題はないと思いますが。

3.業界構造の健全化を望む

不当誘致と決済ヘルプを駆使して不動産屋とベッタリな司法書士事務所のせいで、不動産屋もそれが当たり前だと思ってしまっています。

ごく稀に、何らかの理由(例えば知人からの紹介)により、不動産屋から仕入れの登記の依頼が来ることがありますが、「いつも頼んでいる司法書士と同じ値段でやってくれ」と言われます。つまりは、タダ同然です。当然お断りします。紹介者の顔を潰すのは忍びないですが。

不当誘致をきちんと取り締まり、決済ヘルプを禁止すれば、決済の集中する月末に血眼になって司法書士を探すのは(不動産屋とベッタリの司法書士事務所ではなく)不動産屋(もしくは仲介業者)ということになります。

依頼を受ける司法書士は不動産屋とは何の癒着もないので、中立の立場から本来の職責を果たすことができます。また、報酬も上げることができると思います。数千万円から数億円の損害賠償リスクを負う割に、現状の司法書士報酬は安すぎると思います。

司法書士がいなければ不動産売買は完結しないのだから、もっと堂々と構えて適正な報酬をいただけばよい(不当な値引きを要求されたら毅然と依頼を断ればよい)と思うのですが、仕事欲しさに不動産屋の犬に成り下がっている事務所のせいで司法書士が見下されてしまっています。

業界構造の健全化により司法書士の地位が向上し、報酬も向上すればこんなに嬉しいことはないんですけどねぇ…。残念ながら現在のこのような惨状の下では、不動産屋と積極的に付き合う気にはなれません。

4.懲戒リスクも高まる

不動産屋との癒着により、懲戒を受けるリスクも高くなります。

過去の懲戒事例を見ていると、馴染みのない不動産業者に騙された、というケースはあまりなく、むしろ付き合いの長い不動産屋が絡んだ案件でやらかすことが多いようです。

例えば、売買当事者の意思をきちんと確認せずに登記申請をしてしまうということがあります。なんでこんな事をしてしまうのかと不思議に思えますが、いつも取引している不動産屋だとつい手続きがルーズになってしまうのでしょうか。

また、いつも仕事を回して貰っているお得意様からの依頼とあらば、あやしい事案も断り切れないという場面があるのかもしれません。

不動産屋から「売主の了解は取ってるんで、登記よろしくお願いします!」と言われても「いえ、私からきちんと売主本人に意思確認させていただきます」と言えないなら司法書士失格ですが、上下関係ができているとそんな当たり前の事も言えなくなってしまいます。

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