『会社員は本当に司法書士より安定しているのか』でも書きましたが、司法書士には定年退職がないので、年齢によって一律に引退させられることはありません。
私も司法書士試験に合格した時は「体にさえ気を付ければ生涯現役でいられる!」と思ったものです。その考えは、合格後に最初に勤めた事務所での経験により修正を余儀なくされます。
※『最初に勤務した司法書士事務所(1年5ヶ月)』
最初の事務所の所長は当時70歳近くで、司法書士歴30年以上の大ベテランでした。知識も経験も豊富で尊敬できる先生なのですが、凡ミスが多いのです。
その事務所は決済事務所で、私を含め司法書士資格者を3名雇っていましたが、仕入れの決済は基本的に所長が行くことになっていました。
仕入れとは、不動産業者が地主等から土地を買い入れることです。不動産業者は仕入れた土地を宅地造成して区画し、家を建てて分譲販売するのです。
我々雇われの司法書士が行くのは主に後者の販売の決済です。比較的リスクが低い(というかほぼない)のです。決済において本人確認・意思確認は買主よりも売主に対してより慎重に行う必要があります。なりすましのニセモノがいるとしたら、金を受け取る側である売主のはずだからです。販売の場合、売主は所長と20年以上付き合いのある不動産業者です。ニセモノのはずがありません。
ところが仕入れの場合はその不動産業者は買主側です。売主は面識のない人です。最悪、地面師などの詐欺グループである可能性も否定はできません。本当に本人なのか、本当に売る意思はあるのか、慎重に確認する必要があります。なので、登記申請代理人として責任を負う所長が自ら決済に臨むのです。なお、不動産業者側も社長等それなりの立場の人が立ち会うことが多いです。
私も所長の決済に同席させてもらったことが何度があります。本人確認や意思確認はしっかり行うのですが、書類の確認が雑なのです。登記申請は、一文字たりとも誤りが許されません。ひとつの見落としで登記が通らない可能性もあります。
所長が決済から帰ってきた後、事務員が登記申請に向けて書類を整えるのですが、「所長の書類は特に気を付けてチェックしろ」が共通認識になってしまっていました。所長本人も自覚があるようで、自分は衰えたと度々嘆いていました。その様を間近で見て、人は体が健康でもアタマが衰えてしまうことを悟ったのでした。
私の同期合格者の中に、他人の事務所を承継した人がいます。合格前の補助者時代からずっとその事務所で働いていた人でした。その人も、引退間際の所長(70代)は危なっかしくてフォローが大変だったと言っていました。
私の所属する司法書士会では、会員の訃報がメールで回ってきます。それを見ていると、亡くなる間際まで司法書士として働いている人も多いようです。(登録しているだけで仕事はしていない可能性もありますが。)
衰えは人それぞれだと思いますが、定年がないからこそ、引き際は自分で判断しなければならないと思っています。人を雇うつもりはないのですが、いつか他の若い司法書士に引き継がなければならない時が来るのかもしれません。そもそも引き継ぐほど仕事がない可能性もありますが…。
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