最初に勤務した司法書士事務所(1年5ヶ月)

独立開業のリアル

1.まずは決済事務所!

もともと法律とは無縁のIT業界にいたので、当然ながら司法書士業界での実務経験はゼロでした。なのでソクドク(即独立)は考えもせず、しばらくはどこかの事務所に勤務しようと思いました。業界の実情は全くわからないものの、何となく「司法書士たるもの決済ができねば」という思いがありました。そこで1つ目は決済事務所にしました。

決済とは、不動産売買における最終段階で、売主から買主へ物件を引き渡すと同時に、買主から売主へ残代金(既に支払済みの手付金を除く売買代金)を支払う場です。司法書士はこの場に立ち会って、売主・買主の本人確認・意思確認および登記に必要な書類が揃っていることの確認を行います。

買主としては、自分への所有権移転登記が入る前に代金を支払うことになるのでリスクがあります。また、不動産の購入にあたっては銀行から融資を受けること(住宅ローン)がほとんどです。銀行としても、抵当権設定登記が入る前に融資を行うことにはリスクがあります。ですが、売主としても代金を受け取る前に所有権移転登記をされるわけにはいきません。このジレンマを解消するため、司法書士が決済に立ち会って「決済終了後に遅滞なく間違いなく所有権移転登記・抵当権設定登記できます」と保証することで銀行は融資を実行し、買主はそのお金で代金を支払うのです。

万が一、書類の不備等でその日のうちに登記申請ができず、モタモタしているうちに二重売買により他の人へ所有権移転登記がされたり、差押えの登記が入ったりすると司法書士は損害賠償責任を負う可能性があります。なにせ不動産に関しての損害賠償ですから、その額は数千万円から数億円にのぼる恐れがあります(仮に損害が発生しなかったとしても、決済当日中に登記申請できなかった場合、その司法書士の信頼は失墜し、二度と仕事が来なくなるかもしれません。)非常に責任の重い業務ですが、これにより経済活動において重要な役割を担い続けたことが、司法書士が150年にわたって制度を維持・発展し続けられている大きな要因だと思います。

2.仕事の内容、1日の流れ

その事務所は司法書士が4人(所長と私を含む)、補助者が6人でした。司法書士事務所としては結構多めの人数だと思います。ちなみに、面接に行った際、同期合格者で特別研修(簡裁訴訟代理等能力認定考査を受けるために必要な研修)も同じ班だった人がいたのでびっくりしました。私よりも一足早くその事務所に就職していたのです。

主なお客さんは不動産デベロッパーで、土地を仕入れてその上に家を建てて分譲販売する会社でした。売買契約書の中に「司法書士は売主(デベロッパー)が指定する」という条項があり、その事務所に決済案件を回してくれていました。

先輩司法書士の決済に同行させてもらい、何回か見学させてもらった後は、独り立ちしてひたすら決済の日々です。決済の立会いは資格者しか行くことができないので、多い時は1日に2~3件決済をハシゴすることもあります。決済後は一旦事務所に戻り登記申請書類を整えた後、他の資格者の決済分もまとめて法務局に申請しに行きます。行き帰りの途中で、ついでに銀行や不動産屋で書類を預かったり届けたりといった用事をこなします。法務局では登記申請するとともに、以前に申請して登記完了した分の書類を受け取ります。

事務所の中にいることはほとんどなく常に外回りしているような感じでした。会社員時代はデスクワークだったので新鮮で、楽しんでやっていました。ですが1日の動きがほぼルーチンで、半年を過ぎる頃には正直飽きてきましたまた、資格者は決済優先なので、相続登記や商業登記の案件はほぼ経験できず、それらは補助者の方々が担当していました。そんなわけで、1年勤めたら辞めようと思い始めました。

3.辞意を伝えたら跡を継いで欲しいと言われた

1年を少し過ぎた頃、所長に退職の意思を伝えました。すると意外なことに、事務所の跡を継いで欲しいと言われました。所長は当時70歳手前で、そろそろ引退を考えていたのでした。

魅力的な話ではありましたが、もともと人間関係等のしがらみが嫌で1人で独立開業したくてこの資格を取ったのでお断りさせていただきました。跡を継ぐといっても当然タダというわけではないでしょうし、離れてしまう顧客もいるでしょう。一から仕事を教わった補助者の方々を雇用する立場になるというのもちょっとな…という感じですし。

なお、司法書士は年齢層が高く、60歳以上の割合が3分の1以上を占めるので、跡継ぎに困っている人は多いのかもしれません。息子や娘に継がせたくても試験がとても難しいので受からないというケースも多いでしょう。実際、私の同期合格者の中にも、合格前から補助者としてずっと勤めていた事務所の跡を継いだ人がいます。事務所として使用している不動産が所長の所有なので、そこから引っ越さず家賃を支払い続けること等を条件とされたそうです。

そんなわけでお断りしたのですが、後任の資格者を募集したいので少し待ってくれとことでした。何もわからない状態から丁寧に仕事を教えてもらった事務所だったので感謝の思いが強く、もちろん了承しました。結局、1年5ヶ月をもって退職することとなりました。

後日談ですが、その事務所は某司法書士法人の一支店として吸収されたそうです。先輩司法書士が跡を継ぐ方向で調整を進めていたのですが条件面で揉めたようです。その先輩とは今でも交流があるのですが、話を聞くと「売上に関わらず毎年一定額を支払うこと」「配偶者(先輩の旦那さん)を連帯保証人とすること」「所長の息子が希望する限りは事務員として雇用し続けること」等あり得ない条件を突き付けられたそうです。断っといて良かった。。

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